
FV Think tank
外国人材活用マーケット分析
なぜ外国人材は日本に来るのか?- 経済的メリットの大切さを考えよう
【人はなぜ国境を越えて仕事を探すのか】
日本にいる外国人を取材するテレビ番組などでは、しばしば外国人の方が「日本に来た理由」を尋ねられていますよね。観光客などが取材の対象になるケースが多いこともあり、「日本食など文化が好きだから」「日本のアニメや漫画に興味がある」等の回答が良く見られると思います。
では、日本に働きに来る外国人は、世界中にある196の国の中で、なぜ日本を選んだのでしょうか?
話を日本に限定する前に、世界における人材の移動について見てみましょう。
国連が発表している「International Migrant Stock」によると、移民輩出国と移民受け入れ国の組み合わせの中で、移動する人の数TOP15はグラフ1のようになっています。
大まかな傾向としては、一人あたりGDPが小さい国から大きい国へと移動しており、ギャップが最も大きいのはインドからアメリカへの移動(27倍)、最も小さいものがカザフスタンからロシア(1.1倍)であり、一人当たりGDPの平均的なギャップは約8倍です。
グラフ1からわかるように、もちろん物理的な距離も移民数の多寡には関係していますが、単に近いというだけで国境を越えた人材の移動が発生するのではありません。
「移民にとって経済的メリットが十分にあるか」という点は、人の移動を考える上で重要な要因なのです。
<グラフ1:世界の国から国への移民の流れ>

出典:国際連合経済社会局人口部門「International Migrant Stock」(2017)
同じことは日本にも言えるでしょう。前回のコラムでは、日本に来る外国人労働者の国籍が多様化し、中国籍の方が占める割合が減少していることについて触れました。
中国経済は2000年代初頭から急激に成長しており、一人当たりGDPは2019年までの5年間で40%増加しています。それに対し日本の一人当たりGDPは同じ期間で10%増加にとどまります。
中国に住む方々からすれば、勢いに乗って成長している自国に留まることと、わざわざ日本に出て働くことを比べたとき、後者のメリットは年々小さくなっています。
さらに、中国沿岸部は目覚ましい経済成長を遂げており、例えば上海では2018年時点で一人当たりGDPが53,000ドルに達しています。日本は同じ時期44,000ドルなので、中国の大都市ではすでに日本よりも経済的に豊かな暮らしができる可能性が高いのです。
このように、経済的メリットは国境を越えた人材の移動を語るうえで見逃せない要素であると言えます。
【同じ日本でもこんなに違う!地域間の経済格差】
中国沿岸部の経済は先述の通り、欧米やシンガポール等他の先進国に迫るほど成長しています。一方で、貴州省や雲南省などの地域では一人当たりGDPは10,000ドルを下回っており、国内の経済格差が拡大していることがわかります。
実は日本も地域間の経済格差を抱えていることを、皆さんはどの程度ご存知でしょうか?
<グラフ2:大卒初任給(2018年)>

出典:厚労省
例えば大卒者の平均初任給で見たときに、1位の東京都と最下位の沖縄では、なんと45,500円もの格差があります。
大卒者に限らず、アルバイトやパートタイム、技能実習生等に対しても適用される最低賃金でも、大都市と地方では大きな差が出ています。東京都が1,013円であるのに対し、最下位の青森県、岩手県などでは790円です。1日6時間、月20日働いたとして、1カ月にもらえるお給料を最低賃金で計算すると、東京では121,560円、青森県などでは94,800円。約27,000円もの開きがあります。
同じ日本でも、外国人材にとって経済的メリットがあるかどうかは、どこで働くのかによって大きく変わってくるのです。
<グラフ3:最低賃金の比較>

出典:全国最低賃金ランキング2020年
地方では特に「優秀な人材が域外に流出してしまう」「少子高齢化が進み、働き手が不足している」といった悩みがあります。近年ではこうした課題を、外国人材を受け入れるという手段で解決しようと試みる自治体や企業も増えてきました。
しかし、外国人材が自分の待遇に満足し、より長くその地域で働いてくれることを目指すには、その人がこれまで過ごしてきた場所とこれから働く地域を比較し、十分な経済的メリットが本人にとってあるかどうか想像することが非常に大切です。
初めにみたように、メリットがなければ、距離が近いという理由だけでは、人は国境を越えてわざわざ移動しようとは思いません。例えば北京に住む求職中の外国人材を東京にある企業が採用することや、大阪の大学に4年間通いアルバイトもしていた留学生を、地方に呼びこみ働いてもらうことは難易度が高いのです。(まれに「日本の文化が好きだからどうしても日本に住みたい、地域はどこでもいい」という方がいらっしゃるかもしれませんが、異文化体験やサブカルチャー消費をインターネットで行うことができるこの時代、そうした事例は稀だと考えた方がよいです。)
自治体も企業も、経済的メリットが十分にあるエリアで暮らす外国人材にターゲットを絞ったほうが、より効率的に人手不足を解消したり、採用活動を成功させたりすることができるのではないでしょうか。